【クッキーモンスター】

 あたし、木下胡桃は、小学校から帰宅途中でおかしなものを見つけた。

「なんだこれ? おもちゃの宝箱?」

 ファンタジーに出てきそうにデコられた、手のひらサイズの宝箱を拾い上げ、まじまじと見つめる。
 中を開けてみようかとしたが、どうやら鍵がかかっているようだ。
 あたしは憑りつかれたかのように、その箱に魅了される。
 辺りをきょろきょろと見回し、「持ち主が近くにいなそうだし、持ち帰ろう」
 交番に届けるのではなく、なぜかそう思った。

 駆け足で自宅に帰り、玄関を開ける。

「ただいま~」

 がらんとした家の中は、当然返事はない。両親がまだお仕事から帰ってきていないからである。
 洗面所でうがい手洗いを済ませると、急いで二階にある自分の部屋へと向かう。
 ドサッとランドセルを投げ置き、学習机の上に宝箱を置き、自分も椅子に座る。

「鍵穴があるな?」

 まじまじと見つめていたら、鍵穴があった。あたしは鍵穴を覗き込む。
 だが、中は見えない。まあ見えたところで鍵のことなんて知らないし……。

 そこでふと思いつく。
 こういう安物の玩具は、定規の角を突っ込み、クリっと回せば大抵開いてしまう。

 早速、ペン立ての中から、定規を取り出す。
 角を突っ込み引っ掛ける。そして回してみると、鍵穴は縦から横へと向きを変えた。

(やった! 開いた!)

 定規を置き、うきうき気分になってきた。
 それはまさに、海賊が金銀財宝の入った宝箱を手に入れた瞬間のように。
 あたしは目を輝かせて、その宝箱を慎重に開けた。

 すると、黒い煙がぽわんと出た。その煙を払いつつ、宝箱の中を見つめるが、何も入っていない。
 がっかりとして、宝箱から手を離し、天井を見つめると、そこには小さな黒い猫が飛んでいた。しかも翼がついているし!?

 驚きのあまり目を見開いて、呆然とする。
 すると、相手の方から声をかけてきた。

「やあ、こんにちは。君が僕の新しいご主人様なのかにゃ~?」
「え? ご主人様? なんのこと?」

 あたしは黒猫に、意味が分からず聞いてみる。

「ボクはクッキーモンスターのペルだな~。スイーツ界からやってきたんだにゃ~! この世界のことを勉強するためにゃ~」
「はあ……?」

 なんと突っ込んでいいのか分からず、気の抜けた返事をした。

「それでご主人様。ボクにクッキーを作って欲しいんだけどにゃ~」
「え? あたし、お菓子なんて作ったことないよ?」
「え?」

 お互いに見つめあった。次の瞬間……。

「ご主人様! クッキーを作る練習するにゃ~!」

 こうして、あたしと自称クッキーモンスターのペルとの生活が始まった。

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