予約していた時間。午後の診察開始時間。その時間に辿り着くと、自動ドアが開かない。あれ? と思い自動ドアをまじまじ見るとプラスチック製と思われるプレートがかかっている。そこには『ただいま昼食休憩中です。5分前に開院致します』と記されていた。
『円滑に診察が出来るように予約時間の5分前に来ていて下さい』と言われていて5分よりも前に来てしまい開いていない。なんか納得いかないまま開くのを待つ。
10分ほど待つと自動ドアが開いて診察開始時間となった。
今までに来たことない場所の歯科。緊張しつつ中に入る。スリッパを置いて履いた後に、靴を入れる所がないかとキョロキョロと見渡す。だが見当たらないのでスタッフさんに聞いてみた。
「靴ってこのままでいいんですか?」
「はい。そこで大丈夫です」
そして中に入り初診の受付をする。すると問診票を渡された。そこには質問事項以外に誓約書のようなものがあった。『診察が終わるまで通います』と書いてあり、名前をサインする欄もある。なんか商売上手な歯科に感じつつも、記入を済ませて受付に渡した。
私が一番最初に入ったので、直ぐに呼ばれた。
「4番の診察室にお入り下さい」
診察室に入って荷物を置くと、診察の椅子に座り、治療用の使い捨てエプロンをはめられた。
そして、口の中を写真撮影する。一眼レフで本格的に感じた。口の中を写真撮影する時はフックのような物を渡されて自分で引っ張り、口の中を見えるようにした。そこへ長方形の大き目な鏡が口の中へと突っ込まれて撮影をされた。最後に自分の顔も撮影されるなんとなく賞金首の撮影をされた気分である。
撮影が終わるとレントゲン室へと案内される。椅子に座り顎を台に載せた。そして何か長細い板を加えさせられた。
「溝が見えますか?この溝の位置を前歯で嚙んで下さい」
指示されたとおりに噛んでその板を咥える。そしてレントゲン撮影が行われる。撮影機器が私の顔の周りをぐるりと回る。噛んでいた板がずれたような気もしたけど、撮影は状況は直ぐに確認されて問題なかった。そして次の撮影になる。被爆を防護するようなエプロンを付けた。ずしりと重さを感じた。
口を開いた状態で撮影するために、口の中に何かを咥えさせられた。外側にはプラスチックか樹脂らしき輪っかがついていて、そこからレントゲンの撮影が行われた。右上、右下、左上の3方向の撮影が終わると、4番の診察室へと戻った。
さらに検査が続く。今度は機械ではなく歯科医が、歯のぐらつきや歯茎の状態を確認していた。歯茎の確認は針みたいなものでチクチクと刺された。事前に『痛みを感じたら左手を上げて下さいね』と言われていていたが、どの程度の痛みで根を上げて良いのか分からずに、痛いと思うことはあっても、最後まで左手を上げることはなかった。途中で痛いの判断基準で悩んでいた。神経が痛みをきちんと感じるかを確認しているのなら痛いと言うべきかもしれないけれど、単に刺した感覚で確認をしているのならば痛いというのは我慢するべきなのだろう。大人ですからね……。
確認が終わると担当していた人が写真を見せてくれようとしていた。そこへ丁度医院長が来たので交代して、写真を見せながら説明してくれた。
「この歯は神経を抜くかもしれません。あと親知らずがあるので、このままにしておくと良くないので、これも抜くかもしれません」
『神経を抜く』、それは私は事前にネットで調べていた。なんでも神経を抜くと歯に栄養が行かなくなり、歯の劣化が早まるとのこと。それを私は医院長に確認してみた。
「そうですね。神経を抜くと歯が脆くなります。でも、この歯は恐らくもう神経が死んでいるでしょう。細菌が広がらないように抜く必要があると思います」
私はショックを感じた。今まで美味しいご飯を食べるための戦友の余命宣告をされた気分であった。
治療方針の説明を聞きつつ、今の状態を私は話した。
「欠けた歯が尖ってしまって、頬の内側を怪我したんですけど」
そう言うと、尖った所を削りましょうということになった。私が口を大きく開ける。そこへ削る機械が入り込んでくる。歯に接触するとキュィィィンと嫌な音を立てて、私の歯を削っていく。音を聞いているだけで痛い気がしてきた。気のせいなんだけどね。
そして削った後に舌で確認する。尖った所はなくなってほっとした。これ以上あの嫌な音を聞かずに済んだということにもほっとした。それが終わると医院長は先ほどのスタッフさんと交代した。
今度は歯石の少し除去を行った。歯石の除去中も『何かありましたら左手を上げて下さい』と言われていた。私は歯石除去中に、自分の唾液が溜まりすぎて、呼吸が出来なくなって苦しくなった。左手を上げてみる。でも、スタッフさんは気づいていない。諦めて一度は左手を下ろしたが、やはり苦しいので左手を上げる。やっとスタッフさんが気づいてくれた。そして詰め物をして今日の治療は終わった。
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