黒狐と白狐の尾行

ライトノベル関連

 天空街に恋坡たちが出発した後の稲荷街。黒狐と白狐は相談していた。

「奥方は大丈夫かな?まだこちらの世界のことをあまりわからないから心配だよ」

「そうだね。暖さまも律さまも説明がなさすぎるように思える」

「白狐ちゃん、少しだけ様子を見に行かない?」

「えー、黒狐ちゃん。天空街は人が多いからなんか緊張するよ」

「まあ、そう言わずに。奥方にお仕えするようになればあちこち行くこともあるかもしれないから今から慣れておいた方がいいよ」

「……そうだね。わかった。行くよ」

白狐は渋々了承した。二人は早速少女の姿になる。黒狐は黒い髪で頭の後ろ下でお団子にしている。白狐は白い髪で一つ結びをしている。急いで天空街で目立たないための服装に着替える。一人で着付けをやるよりお互いに助け合い着付けをする方が速いので、やりにくい所はお互いに手伝う。黒狐は桃色の振り袖で白い狐の模様が入っている。白狐の着物も桃色の振り袖で黒い狐の模様が入っている。仲が良いのでお互いの色を模様にした振り袖を着ているのだ。着付けが終わると化粧をした。恋坡がした化粧と同じく、顔を真っ白にして目元と唇を鮮やかな赤色にした。化粧が終わるとお互いの髪に飾りをつけた。黒狐には髪をお団子にした所にかんざしを挿し、白狐は髪飾りをつけた。どちらも金色で狐の装飾が施されている。着替えが終わると桐の下駄を履き二人仲良く天空街を目指す。

「行こう。白狐ちゃん」

「うん、黒狐ちゃん」

二人はまるで狐が飛び跳ねるかのように走り出した。恋坡たちとは着替えをしていた分の時間差はあるが、恋坡は着物や下駄に慣れていないからそんなに早くは歩けないはず。

 恋坡たちの後を追うと赤い神社の鳥居が見えてきた。人影が見えたので立ち止り確認する。どうやら恋坡たちのようである。恋坡に目を向けると足をひょこひょこと動かして歩いている。どうやら慣れない下駄で足が痛いように見えた。

「暖さまたち居たね。気づかれないようにしよう」

「そうだね」

だが、暖には気づかれたようでチラリと後ろに目を向けたが、気にせず視線を戻した。

「黒狐ちゃん。暖さまに気づかれたよ」

「そうみたいだね。でも、暖さまはお優しいからこの位で怒ったりしないよ。大丈夫だよ。白狐ちゃん」

そして、そのまま距離を取りつつ尾行を続ける。恋坡たちがそばに大きな柳の木がある鳥居をくぐり抜け天空街に入ると、見失わないように自分たちも鳥居をくぐり抜ける。見世や行き交う妖の赤提灯が沢山視界に入る。

「黒狐ちゃん。人が多くてなんか緊張するよ」

「私がいるから大丈夫だよ。白狐ちゃん」

見世から聞こえる音楽に二人もなんとなく心を躍らせる。そのまま尾行を続けると花魁道中が向かってくるのが見えた。花魁の後ろから差された真っ赤な傘の先に金の飾りがついている。花魁が進むのと一緒に、その傘の飾りが音を立てている。花魁を中心に二足歩行の猫が赤い提灯を持って並んでいる。そして、恋坡たちと何か話しているようであった。

「あの方と会えたようだね」

「そうだね。黒狐ちゃん。それならもう引き返さない?人が多くてなんかどきどきするよ」

「せめてあの方の見世に辿り着くまで見守ろうよ。もう少し頑張って、白狐ちゃん」

黒狐に応援された白狐は『見世に辿り着くまで』と言われたのでそこまで頑張ることにした。花魁と合流したら後の尾行は楽であった。妖たちの会話する声や見世から聞こえる音楽をかき消すほどに花魁の高下駄の音が鳴り響く。花魁の行列はゆっくりではあるが、段々と奥に進んで行く。その進み具合にどうしても白狐はそわそわしてしまう。やがて、看板に『あさがおや』と書いてある見世に辿り着き、恋坡たちも入って行った。

「奥方が無事に辿り着いたよ。白狐ちゃん」

「じゃあ、もう稲荷街に戻ろうよ。黒狐ちゃん」
二人は恋坡たちを見届け終わり、また狐が跳ねるようにぴょんぴょんと走って稲荷街に帰った。

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