【ギルド嬢シェリーの探偵日記3】

【1】

 今日は、ハーバー伯爵家にギルド長と私は招かれていた。
 理由は日常的に領地ないで、冒険者ギルドが貢献しているからとのことだ。
 私たちだけではなく、他の貴族たちも招かれて、ちょっとしたパーティーが催されている。
 立食パーティーで、ギルド長がハーバー伯爵と会話しているとき、私の視線は何を食べようかと料理に目移りしていた。

「ここにミノロフの絵画があるとはどういうことですか!?」

 突然の大声に、何事かと会場内にいた人は、会話や食事の手を止め、声のした方を向く。視線の集まった先には、グエス男爵がいた。傍にお付きの者も数名いる。
 ハーバー伯爵と私たちは、グエス男爵の所にいく。
 料理がお預けとは……とほほ。

「なにごとですか? グエス男爵」
「何事も何もないですよ。これは我が家の家宝であるミノロフの絵画。部下に鑑定させたら本物じゃないですか!?」

 そう言われて、ハーバー伯爵は凛として答える。

「いや、そう言われてもこれは我が家の者ですが。グエス男爵の何か勘違いではありませんか?」
「うちの絵画を鑑定したときに、本物だったから私は買ったんですよ! さては、ハーバー伯爵。あなたが私の家の絵画を盗んで偽物とすり替えましたね!」

 ハーバー伯爵は戸惑っている。

「なんで私がそんなことを……盗むなんてしませんよ」

 二人が言い争っている隙に、私は鑑定スキルで確認する。確かに本物のミノロフの絵画である。
 問題はどちらの主張が正しいかだ。
 ハーバー伯爵は頭を抱え込んでしまい、ギルド長と私の顔を見る。

「ギルドに依頼を出すので、この件を解決してくれないか?」

【2】

 パーティーは急遽、お開きとなってしまった。まあ、あんな気まずい空気の中、続けることは出来ないであろう。
 私とギルド長は、ギルドに魔道具を取りに戻りながら話し合う。

「シェリーはどう思う?」
「鑑定結果は、本物でした。まあ、あとは魔道具で指紋を確認すれば問題解決と思いますよ」

 そして、指紋鑑定の魔道具を持ち出して、再び、ハーバー邸に戻った。
 ハーバー伯爵とグエス男爵、そしてそれぞれの使用人の見守る中、依頼を遂行する。
 私は魔道具のランプに灯りをつけて、ハーバー家の使用人に指示を出す。

「この部屋の明かりを消して下さい」

 日中に中止になったパーティー。そして、ギルドに戻りここに来た時には、指紋鑑定するには十分に陽が落ちていた。
 私は魔道具のライトで絵画を照らす。すると、指紋が浮かび上がる。その指紋を確認していくと、複数名の指紋が見受けられた。
 指紋撮影用の魔道具で撮影をして、指紋照合機で、ハーバー伯爵とグエス男爵の指紋を確認してみる。するとどちらの指紋もついている。

(なんで二人の指紋がついているんだ?)

 そこで三通り、考えられる。一つ目はグエス男爵の言うように、ハーバー伯爵が盗んだということ。他の指紋は盗みに関わったものかもしれない。
 もう二つ目は、パーティーの時に、グエス男爵が触ったということだ。
 三つ目は、グエス男爵が盗まれたものが盗品として売り出され、それをハーバー伯爵が買ったということだ。
 とりあえず、得られる情報はなるべく多く欲しいので、別室を用意してもらい、ハーバー伯爵とグエス男爵に個別に質問をした。

【3】

 まずはハーバー伯爵からである。室内には、私とギルド長。そして、ハーバー伯爵だけで、使用人には退室して貰っている。

「ハーバー伯爵。あの絵はいつからあったのですか?」
「あれは、先祖代々からある絵だ。私も子供の頃からあの絵を目にしている」
「その絵がレプリカだったということはありませんか?」
「いや、家名を引き継ぐのと同時に、家宝の類は鑑定で確認している。私が父から譲り受けたときに鑑定したら、本物であった」

 この証言で、三つ目の可能性は消えた。この証言が本当だった場合だが。
 次にグエス男爵から話を聞く。

「あの絵はハーバー伯爵の物で、グエス男爵の物がレプリカだったということはありませんか?」
「そんなことはない! 商人を呼び寄せて、ちゃんと鑑定して買ったんだ!」
「買ったのはいつ頃ですか?」
「二、三か月前くらい。いや、半年前ぐらいかもしれない」
「そうですか……」

 グエス男爵の証言が、いまいち曖昧なうえに、挙動も不振である。疑うべきはグエス男爵かもしれない。

「では、グエス男爵の邸宅の絵画を指紋鑑定させて頂けませんか?」

 グエス男爵は顔を真っ赤にして怒り出す。

「冒険者風情が私を疑っているのか! 貴様らごときがうちの門をくぐることは許さん!」

 怒り心頭のグエス男爵は、「とにかく絵を取り戻せ」とだけ吐き捨て、ハーバー邸を出ていった。

【4】

「ギルド長……どうしますかね?」
「司法権限を取り寄せよう」

 『司法権限』
 法律により問題を解決するため、関係者は調査において強制的に協力しなければならない。協力しない場合は、事件はなかったこととなる。グエス男爵にとって、それは困ることであろう。
 そんなことを考えていると、ギルド長はとんでもない支持をしてきた。

「俺が司法権限を取り寄せに行くから、シェリーはグエス男爵邸に忍び込め」
「はっ?」

 発言に驚き、ギルド長の方を振り向いた。

「グエス男爵の家に、レプリカすらない可能性がある。レプリカがあっても、それが破棄されたら調べようもない。だから今すぐ忍び込んでくれ。その為の司法権限も取り寄せておくから」
「はぁ……」

 私は悩まし気に額に手をあてた。

【5】

 上司命令にやむを得ず、グエス男爵邸に忍び込む。グエス男爵が外出と分かっていれば、変身魔法でグエス男爵に化ければいいだけなのだが、まだグエス男爵は帰ったばかりで、外出予定はないであろう。
 仕方なく、隠密スキルで気配を消しつつ、屋敷内を徘徊する。いくら夜で暗いと言えども、使用人に見つからないように、尚且つ、数ある部屋の中から絵画を探すことは骨が折れる思いだ。
 すると、グエス男爵の独り言が聞こえてくる。室内を確認するために、そっとドアを少し開ける。なかなか神経を使う仕事である。今度、ギルド長に飲み代でも奢ってもらわないと、仕事と言えども割に合わない。
 そして、部屋の中を見える範囲で見つつ、グエス男爵の独り言に耳を傾ける。
 
「ミノロフの絵画は私のものだ! どんな手を使ってでも手に入れてやる!」

 部屋の中には、問題とされているミノロフの絵画が飾られている。その前で独り言を言っている。そして、ミノロフの絵画を集めているのか、他の作品も飾られている。

(これは……ミノロフ絵画コレクターかな? もう、「どんな手を使ってでも手に入れてやる」とか盗人みたいな台詞言ってるし……)

 録音できなかったことが痛い。だが、レプリカは破壊されていないらしい。ミノロフの作品が好きなのか、レプリカと言えども破壊するのが惜しいのかもしれない。
 グエス男爵が動きを見せたところで、私は開いていたドアを急いでそっと閉じて、ひとまずその場を離れ、グエス男爵が部屋から去るのを見届けた。

【6】

 グエス男爵が去った後、私は室内へと侵入した。色々と魔道具を持ち運ぶことは隠密行動には合わないので、指紋を取るライトとカメラだけを持ってきていた。それで指紋をとって退散した。
 ギルドに戻ると、すぐに指紋照合を開始する。
 先ほどとったハーバー伯爵の指紋は出てこない。グエス男爵と使用人と思われるものしかない。

(これはグエス男爵がミノロフの作品を集めたいがための狂言かな……)

 そう結論づいたところに、ギルド長が司法権限の紙を手にして戻ってきた。
 私は溜息を吐きつつ、ギルド長に一言。

「ギルド長、遅いですよ……グエス男爵がミノロフ絵画のコレクターで、ハーバー伯爵が手にしている作品を奪い取るための狂言でしたよ」

 ギルド長はきょとんとしている。

「なんでそう思うんだ?」
「録音はできなかったですが、グエス男爵自身がそう言ってましたから……」

 こうして問題は解決をして、ハーバー伯爵の名誉は守られた。

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